「はぁ…」
ため息を漏らしながら夜の街をさ迷うのは高校2年生の日下部愛桜。
何故、夜の…しかも夜中1時すぎにこんなとこを歩くはめになったんだろう…。
その原因となったのは、ほんのささいな彼氏との喧嘩だった。
あたしの彼氏…柊秀一と昼間、喧嘩した。
理由は秀一が女の子とキスしているところを見てあたしがキレた。
そのまま、怒りがおさまらずとうとう秀一のほうも怒り出してしまい、今に至る。
あたしの両親はあたしが幼いうちに死んでいるのであたしは秀一の家に住んでいた。
けれど、喧嘩した手前家には居づらく街に飛び出してきた、という訳だ。
だが12月という気温の低さと街の喧騒にあたしの心は折れかけていた。
はぁ、とまたため息をついたとき誰かにぶつかった。
「いってぇな!どこ見て歩いてんだよ!」
いかにもチンピラっぽい集団がこっちにむかって怒鳴っている。
「ご、ごめんなさいっ」
あたしは慌てて頭をさげた。
「はぁ?ごめんですむわけねぇだろ!」
じりじりと囲むようにあたしの周りに近付く男たち。
あたしは恐怖のあまり身を縮めてしまう。
「お前、ちょっと俺たちと来いよ!」
そう言ってあたしの手をぐい、とひく。
「やっ、あの、本当にごめんなさいっ!」
あたしは涙を浮かべながら謝るも手は一向に緩まない。
「あの、本当に―」
「何してんの?」
あたしが再度、頭を下げようとした瞬間低めの声がそれを遮った。
「あぁん?何してようと俺らの勝手だろうが!」
集団の中の1人がそう怒鳴るとさっき聞こえた低い声の主が冷ややかな目でそいつを見た。
「ふぅん?…大人しくそいつ放すか、殴られるかどっちがいい?俺喧騒強いけど…やる?」
にこっ、と笑みをうかべるその人。
「ふ、ふざけんなっ!」
集団の中の1人が出した拳はあっけなくかわされ一瞬にして地面に沈められた。
「まだやる?それとも、もっと大人数でくる?」
未だ笑みを浮かべ男たちを挑発する。
そのただならぬ雰囲気に圧倒されたのか男たちは悔しそうに走り去っていった。
ぽつん、と1人残されたあたしは改めてその人を見た。
驚くほど端正な顔立ち。月に照らされて光る銀髪が凄く幻想的で…。
なんて呑気に考えていたらその人はあたしにむかって顔を近付けていた。「え!?あ、えっと」
あまりに急に顔が近付くものだからあたしは素っ頓狂な声をあげていた。「君……いい度胸、してるね?」
そう呟いたかと思ったらあたしの唇は塞がれていた。