「失礼します…」


「…はい。
 どちら様でしょうか?」


「憂さん…ですよね?」


譲の病室に入って来たのは何故か私の名前を知っている40代くらいの優しそうなおじさんだった。



「譲君の携帯を返しに来たんだ。
 っておじさんのこと分からないよね。
 えっと…事故のあった日に譲君の携帯で君に電話した人だよ。」


譲の携帯から……



「あっ……。」


「思い出せたかい?
 おじさんの声。」


そうだ。


おじさんの声は冷静になって思い出してみると優しくさっき病室に入ってきたときの声のまんまだ。



「憂さん譲くんは?」


「……まだ目が覚めないんです。」


「そうか。」


おじさんはそれ以上何も言わなかった。