「あの、愛くん」

「はい」

「あの、さ。その」

アルベルトは前だけを見つめながら、言葉を続ける。眉間には皺が寄っていた。

「その髪、どうしたんだい」

いやに低い声なので、がーん、と愛はショックを受ける。矢張り似合わなかったのだろう。

「あ、…そうですよね。ごめんなさい。今すぐ括りますから」

「いや、そうじゃなくて」

アルベルトは頬を掻いて、呻いた。

「ま、まさか。どこか痛いんですか?龍太郎くんとの修行で?」

「いや、違うんだ。まさかこの歳になって、中学生のようにこんな台詞を言うのに戸惑っている自分が苦いなあ、と」


瞳が細められて、優しい色になる。

「愛、かわいいよ」

愛は目を見開くと耳まで真っ赤になった。わなわなと体を震わせ、アルベルトを見つめる。桃色の唇が緊張に固まり、そうして。

「きれい、がいいです!」

予想外の返答に、アルベルトは全身で笑った。愛は更に顔を赤らめ、顔を両手で覆い隠す。春風が桜を散らした。どんちゃん騒ぎを続ける人々の声が、空に響いていく。