妹や弟や家族と離れることは辛かったが、考えてみれば仕方のないことだ。このまま家族と共に居ても迷惑を掛けることは目に見えている。憑依される度に除霊をしてもらう。除霊だって、命掛けなのだ。それならば天神で自らの自制心を育て、霊に対抗する力をつけた方が良いに決まっている。


名残惜しいが仕方ない。天神学園の校門に立つ日音子は大きな荷物を両手に抱え、遠い場所にある実家を思った。

「お母さん、お父さん、みんな。がんばってくるよ」

そうして、首もとに掛かる鈴を手にし、揺らしてみる。だが、音は鳴らない。それでも錆び付いた色をした鈴を大切に握りしめる。

「おにいちゃん、いってくるね」

いってらっしゃい、という声が耳元を掠める。そんな気がして振り向けば、眩い程の桜の桃色が視界一面に広がっていた。