2,320,000坪もある壮大な宮殿、石垣の城壁に護られた海の中のフェアリーテイル。四段台座の上に鎮座する紅や金箔で装飾された巨大な宮殿は、何千年前から輝きを無くすことなくそこに在り続けている。竜の様なその佇まいに付いた名称は、竜宮城。下部は漆喰塗りで中央をアーチ型通路とした門一つと虎口五つの六つしか出入り口はないが、比較的オープンであるのは、この城を攻め落とそうと考える輩が居ないからである。

豪華絢爛、荘厳美麗。極彩色が綺麗なその宮殿の厳かな雰囲気を飼い慣らした廊下で、鈴の様な声がそれを劈いた。



「魚尾ーーーーッ!」

其処らを悠々と泳いでいた魚達はまたか、と言わんばかりに溜め息を吐く。そして、名前を呼ばれているにも関わらず廊下を闊歩する痩躯の男に避難の眼を向ける。

しかし、まア。寸分後には懐かしい光景よ、と皆口元を緩めるのだが。



「魚尾魚尾魚尾魚尾魚尾ッ!」

ああ、しかし朝方から騒々しい。魚達は頭痛を感じながら再び己達の仕事に就くのであった。