「姫さん、だあめ」

ね、と美しく弧を描く唇を、乙は眺める。シャンパンを飲む筈だった彼女の唇は乾いていた。二人の視線が、思わせぶりに絡み付く。

「何故じゃ」

「未成年でしょう」魚尾の舌の上で転がされる虹色の飴玉が、時折見え隠れする。

「わらわは、くりすますぷれぜんと、が欲しいのじゃ。構うな」

魚尾は暫く思案する様に視線を泳がせてから「俺は」何ぞと呟いた。人々のどんちゃん騒ぎの音に紛れて、声が鋭く鼓膜を射抜く。

「俺との時間は如何ですか」

乙の唇が愉快だ、と歪んだ。魚尾が、英国紳士を思わせる自然な動作で彼女の手を取る。喧騒が飽和している。視界の端に映る恋人達が、愛らしいやり取りをしている。乙は息を吸って、吐く。瞼を降ろして、再び開く。

クリスマステロの会場に居た人々が、一瞬の内に消失していた。文字通り、誰一人としていなくなっていた。空っぽになった無音の会場を見渡して、乙は最後に魚尾を見つめる。シャンパンのように、泡沫が、浮上して、消える。