エンリィは青年に掛けた上着を取り上げ、即座に立ち上がると、足音を派手に起てながら玄関へと向かう。しかし、そこで再び、ひゅうひゅうという音が鼓膜を揺さぶった。咳の音に、吐き気もあるのだろう、苦しげな呻き声が混じっている。振り向けば、寒さに、彼が身を縮こませていた。弱々しい視線が、エンリィの背中にこびり付く。

一か八かで、エンリィの部屋の壁を叩いたのだろう。そこにあったのは、孤独と恐怖、だったのだろうか。


「だあ!もう!分かりましたよ!この優しい僕が仕方なく買ってあげますよ!」

エンリィは青年に近付くと、乱暴に上着を掛けてやった。すると、それは青年の顔を覆い隠してしまう。彼はふん、と鼻を鳴らすと踵を返した。そして、それを追い掛ける様に、声が背中に投げかけられた。

「あ、りがと」

その言葉にエンリィは慌てて振り向くが、彼自身の上着のせいで、彼の表情は伺い知ることができなかった。けれど、何なのだろうか。胸の辺りをぽんぽん、と叩くと、彼は隠しきれずに笑みを零した。

因みに、その後、彼は酷い風邪をひくことになる。しかもだ、しかも、彼は今後二週間に一回は隣人へ焼きそばパンダを差し入れることが習慣になるのだが、これはまた、別の話で。