前の時、下駄箱の中に、カレーでひたひたになった煎餅が入った封筒が置かれていたのを思い出す。べちゃべちゃの臭い下駄箱は思春期の青年とって大打撃なのだ。筆箱の中の鉛筆の向きがバラバラにされていたのも、赤ペンのキャップの内側が真っ黒に塗られていたのも、きっと全て彼の仕業なのだがくぶる、と、AとBは大野という男に怯えている。因みに大野はそんなことは一切していない。

ほんと、かわいいなお前ら。


「隣の厨二房がウッゼエんだよ。エンリィだっけか?奴がわんわん世界征服だの平伏せだのうるせえからさァ、イライラしてんの。甘いもん買って来て」

「は、はい!今すぐ!」

Aは敬礼をすると、派手な音を起てて椅子から立ち上がった。通話終了のお知らせを告げる、甲高い音のするケータイを閉じて、胸ポケットに戻す。Bは飲みかけのいちごオ・レをに立ち上がった。楽しそうに、CはAを真似て敬礼をした。


「どうする!?ねえよ!金!」Aが喚けば、Bはにやりと笑みを深めた。

「飲みかけだけどいちごオ・レがある」

「ナイスアイデア!ふぅっ!やるね!」

いくぞ!と三人は駆けた。教室内に居た不良達が、生温かい目線を彼等の背中に浴びせる。

───飲みかけは、だめだろ。な?

しかし、そんな視線も何のその、風が吹き抜ける様に彼等は廊下に飛び出す。おバカな彼等の、くだらない日常が、また始まろうとしていた。