オムライスを咀嚼しながら、深い眼色で此方を眺める彼女に、小夜は逡巡した。実際は、嫌なのだ。アイデンティティの埋没等、理屈の羅列は可能かもしれないが、違うのだ。もっと本質的な、感情的な、靄の掛かった理由なのだ。


「そうか、嫌か。でも良いじゃないか」

彼女の唇が、優しく緩む


「お前のこと、本当に理解してくれようとする奴を、知ることが出来るんだから。お前はお前だろう。お前自身が気付いていれば良いじゃないか」


小夜は、目を見開いた。そして、そうかもしれない、とも思った。不思議な子だけど、案外、芯を持つ子なのだろうか。穏やかに落ちてきた言葉は、心の奥底に平穏を齎してくれる。

「小夜ーーっ」考えを巡らせていた少女の鼓膜に、聞き慣れた声が響く。タイマントーナメントで最上の戦闘を魅せてくれた、若き青年だ、と文にすると好青年きらっきらの様な人物を想像するかもしれないが、見た目はただの破落戸である。それでも人を魅了して止まないのは、その性格故であろう。

馬鹿にするのは簡単だが、到底なれぬその精魂は、本能的に人間が渇望する物だ。