─────がん、と。視界が大きく振動して、世界は元の廊下に戻っていた。愛は瞬きを繰り返す。いつの間にか、龍太郎が視界から消えていて。動揺する。愛は狼狽して、後退り掛けて、気付く。優しい体温が背中に添えられていた。暖かい。曖昧な気配が、背後で 揺れている。何だろう。愛は振り向く。

そこに、彼らが、いた。天神学園の、みんな。龍太郎が、彼女の背に手を添えて、背中を押してくれている。あたたかい。直ぐに、幻覚としての生徒達は消えてしまったが、龍太郎一人は、そこにいた。ぐ、と背中に力が加わって、愛は前のめりになる。

「ほら、行くぞ」


優しい声が、鼓膜を揺らした。次はアルベルトの背中に、精一杯声を掛けよう、そうしよう。愛は小さく決意して、今度は自分の足から、歩き出した。