新鮮な空気が、世界に満ちている。廊下は、いつの間にか、何処にも無かった。静寂の鎮座する草原に、愛は立っていた。夕暮れは空を燃やしている様だ。冷たい風が制服のスカートを弄んでいる。愛は、龍太郎を見つめた。

「でも、なんか、が困っていたら、そこが台風の目になって、皆巻き込まれちまうんだよな。それが天神の面白えところでさ。どんな理由であれ、助けようとするベクトルが働くんだ。自然発生的に」

人を魅了して止まないのは、彼が、台風だからか。

「でも、実は、なんか、じゃないんだ。誰かからしたら掛け替えのない、その人で。本人には気付けねえもんだよ。なあ、助けられて、私なんか、はちげえんじゃねえかな。受け止めていけよ。それしか、出来ねえだろ。精一杯零れねえように、受け止めてみろよ」


風が、どうどうと吹き荒れる。愛は、彼に、龍を見た。躯が夕焼けに染められて、燃えている。草原が、風に吹かれて揺れている。宗教的な無味さを湛えている瞳。夕焼けの橙。獲物を狩る為の鋭利な爪先。戦士の古い鎧の如き、鱗。一匹の巨躯の龍が、荘厳な雰囲気を以てそこに、居た。それは顔を彼女に近付ける。愛は呼吸一つすら出来ずに、見蕩れる。龍は口を開いて、そうして、

「のう、小娘よ」