(こんなにも、欲しているのに)

愛は言葉の氾濫する脳内で、必死に次の言葉を紡ごうと思案する。思考回路は疾うの昔に破綻しているのだけれど。


「あの、名前」愛はアルベルトを、真っ直ぐ眼差す。何を言うかは、考えて居なかった。

「二度目だから名前を、知りたいんです」


虚を衝かれて、アルベルトは瞠目する。実際、愛自身も驚いていた。フられた直後の一言目が、名前を聞きたい何ぞ。些か滑稽すぎる。普通順序という物があるだろう、と。彼は彼女を見つめる。愛は驚いていたが、その瞳は真剣そのものであった。

「アルベルト」無意識に言葉が、滑り落ちる。

「下平、アルベルト。学園長だ。よろしく」


突然だが、物事には順序が必要とされる。電車に乗るには切符を買わねばならず、鳥が飛ぶには両翼を広げねばならない。優しい光を感じるには、それに両手を伸ばさなければ。再度宣言する。物事には、順序が必要だ。

「よ、よろしくお願いします?」

愛が困惑しながらお辞儀をすれば、アルベルトは快活に笑った。それにつられて、愛も破顔する。木漏れ日が、柔らかく二人を照らし出す。小鳥が小さく囀って。優しい風が、二人の隙間を通り抜けた。そう、恋愛をするには。