「あのっ!」愛は、口を開いた。

「君、じゃなくて、いと、なんです!愛って書いていとで、よく間違えられるんですけど、あの、二度目めで、会うの、学園長さんって、最近知って、あの、素敵ですよね!すごいなあ、って!ほら!生徒への接し方とか、物腰柔らかくて、あの!素敵だなあって!ずっと!思ってて、想ってて!だから、その、なんて言うか、あの、す、すすすすす好きだなあって!」


ぽかん、とした奇妙な間が二人の真ん中に落とされる。行間の開き過ぎた退屈な小説ですら、此んなに間抜けな時間は無いだろう。風さえも居心地悪そうに、二人の間を通り抜けた。愛は自分の失言に気付いたのか、一気に赤く頬を紅潮させ、直後には青ざめ、再び逆上せた。次々に変化する愛の表情に、アルベルトは微笑んで愛の腕を掴んで軽々と起立させる。

「僕も、生徒の皆が大好きだ」

なんて、と。アルベルトは首を竦める。

「そこまで鈍感な訳じゃないがね」

するり、と。アルベルトは道を避ける。それは模範的な大人の回答だった。曖昧に濁らせて、蓋をする。彼なりの優しい意志表示だ。相手を傷付けんとする、配慮だ。愛はそれに気付いて、地面に目を落とす。初対面に近いというのに、何を期待したのか。常識人なら当然の反応である。見ていただけで満足、とは、よく言えたものだ。