優しい光に、ありがとう。



愛は飛び跳ねそうになる心臓を抑制して、地面を必死に見つめていた。顔を上げたならば、多分、この臓器は原型を留めない程に粉砕されてしまうのだろう。小さな石ころを歩く度に蹴りながら、横の存在を意識する。彼女の隣を闊歩する無精髭を生やした男性、学園長であるアルベルトは四方八方に意識を飛躍させている。

どう言う訳か、愛は、普段学園を留守にする学園長の、案内兼世話係役として抜擢されたのだ。今、その最初の案内任務をこなしているところである。彼女がアルベルトの案内兼世話役に選ばれた裏には、生徒会役員の七星ちゃんが居るらしいが、定かではない。感謝こそすれ、愛は困惑してもいた。

眺めているだけで満足出来る程に、愛は学園長を溺愛していたのだ。それが、こうして、隣で歩いて、会話をしている──会話といっても、軽い挨拶だけだったのだが。彼女にとっては立派な会話であった──何ぞ。脳髄が沸騰してしまう感覚。呼吸の仕方のマニュアルを必死に本能の中に探す。