「あのっ!」愛は無意識の間に、声を掛けていた。

雑談の音が、全て消える。心臓の音が口五月蝿く喋っている。振り向いた瑠璃色の虹彩が、愛を包み込んだ。柔らかい、日差しの様に。

「な、名前を、教えてくださいっ」

暫くの間を置いて、男は、悪戯に微笑んだ。


「それは、また逢えたら、ね」


再び愛に背を向けて、大きな背中は歩み出す。気配に鋭い体育教師が、漸く男に気付いて立ち上がった。音が徐々に耳に届いていく。愛は夢見心地のまま、その男の背中を見つめていた。相手が30半ばで、自身が16であることも関係ない。あの男が何処の誰でも構わない。愛は、深く呼吸を繰り返す。

見つけたのだ。これは、神様の意図であり、糸だ。運命と名付けよう、大切なこの感情を恋としよう。深く深く、感じたのだ。


「また、会いたいな」

そうして二度目の再会は、近くして起こることとなるのだが。それは、もう少し先の、おはなし。