月光に照らされる縁側で、愛(いと)は緩やかな時間を過ごしていた。此処は閻魔的体育教師の自宅であり、古風な日本を感じさせる屋敷である。畳の独特な匂いと、夜暗の静寂に心を預けながら、うつらうつらと眠気と戦う。今の所、防戦一方だ。気を抜いたら夢の街に旅へ出掛けてしまうことだろう。

後ろの宴会場では、妖精さんの父親探しをしているらしい。らしい、というのも、愛は意識を飛ばしそうになっているので、会話が途切れ途切れにしか聞こえないのだ。二つに括った髪の毛が、風に揺られている。


と、そこで突然、愛の時間が止まった。呼吸の仕方が、分からなくなる。
何の前触れもなく彼女の眼前に、男が出現したのだ。歩いてそこに来た訳でもなく、土の中から這い出たでもない。彼女が眠っていたからではない。コマ撮りの風景に、一枚のそれが、突然挟まれたかの様に、唐突に。