こわれもの


名前の呼び方を変えただけで、心の距離まで近づいた気がするのは、アスカだけだろうか。

“ヒロトさんって、ちゃん付けされるようなキャラじゃないけど、こういうの、何かいいなぁ”

「ヒロちゃんて、会社では何て呼ばれてるの?」

「後輩には『ヒロトさん』とか『古泉さん』とか。

先輩とか会社の偉いヤツらには『古泉君』。

普通だろ?」

「何か、その様子、目に浮かぶよ。

ヒロちゃんて、本当に社会人なんだね」

「何をいまさら」

アスカは尊敬のまなざしでヒロトを見つめる。

“私より長く生きてる分、いろんなこと知ってるんだろうなぁ”

そう考えるのと同時に、ヒロトの恋愛歴が気になるアスカ。


「女子社員はふざけて『ヒロポン』って、変な呼び方してくるけどな」

ヒロトがそう言うと、アスカはますます思案に沈んだ。

“やっぱり……。仲良い女の人の一人や二人、ざらにいるよね”

ヒロトと観覧車を共有している喜びよりも、勝手に想像した彼の過去に胸が痛む。

「あ、またその顔」

ヒロトは瞬時にアスカの変化に気がつき、

「焼肉行った帰りも、そんな顔してたよな。

何か、俺のことで気になることでもある?」