こわれもの


「もう、そんなウソつかなくていいよ、ヒロちゃん」

アスカは精一杯、笑ってみせる。

ヒロトに宛てて書いた手紙を、そっとテーブルの上に置いた。

別れることの不安。緊張。悲しみ。

あらゆる感情で手のひらに汗をかいたので、ヒロトに差し出した封筒の一部がやや湿っている。

「……ちょっと早いけど、私からヒロちゃんに、クリスマスプレゼント」

「…………早いな、たしかに」

ヒロトはこわばった顔で手紙を手に取ると、

「手紙もらうなんて初めてだな。

いま読んでいいの?」

「うん」

アスカがうなずくと、彼はおもむろにそれを広げ、黙読し始めた。

そこに綴られていたのは、ヒロトへの想いと、彼と別れることに決めたアスカの心情だった。


最後の一文には、読み終えたら、1分だけ目を閉じ、この手紙の内容を頭で繰り返すようにと、書かれていた。

ヒロトは指示通り、60秒間目を閉じる。


「アスカ、お前……」

つぶやくと同時に、ヒロトは目を見開いた。

彼が目を開くと、アスカの姿は無くなっており、まるで彼女の置き土産とでもいうように、一通の手紙がテーブルの上に残されている。

《マキさんへ》

そう書かれた封筒の傍らにあるのは、アスカが飲み残したアイスティーだけだった。

ヒロトは急いで店を出て周囲を見渡しだが、アスカの姿は、もう、ない。

「1分間目をつむれって、そういうことだったのかよ……」

ヒロトは悔しげに歯をくいしばった。