「ご飯はいいから、とりあえず座って?」
アスカはヒロトを促した。
「ああ……」
アスカの様子から何かを感じ取ったのか、ヒロトは怪訝(けげん)な顔をしつつも、アスカの向かい側に腰を下ろした。
「腹、減ってないの?
いつもはすぐ、腹減った~って言って、飯行きたがるのに」
ヒロトはクスクス笑い、難しい顔でうつむくアスカを見遣ると、店員を呼び止めカフェラテを注文した。
店員がヒロトのオーダー品を運んでくるまで、アスカはずっと下を向いたまま両手を握りしめていた。
ヒロトからマキの話を聞かされるまで、当たり前となっていたヒロトとの時間。
アスカは今、改めて、今まで見てきたヒロトのことを一つ一つ思い出していた。
食べたり飲んだりする、食事中の仕草。
注文するとき、店員を気遣うところ。
こうして別れを間近に感じる今も、ヒロトの言動すべてが、愛おしい。
“……もう、無くなっちゃうんだね……”
こぼれそうな涙を抑えるのは大変だった。
アスカは唇をかみしめる。


