「アスカ……!」
上着も羽織らず、ヒロトはアスカを追いかけた。
アスカは全力で走ったが、積もる雪で足が滑り、思うように早く進めない。
すぐさまヒロトに追いつかれ、腕をつかまれてしまう。
「部屋に戻ろう?」
「嫌だ……!
ヒロちゃんの口から別れ話なんて、聞きたくないもん!」
降りやまぬ雪は、これでもかというほど、アスカの泣き叫ぶ声を大きく響かせる。
20時前の夜の寒さと雪の冷たさでアスカの頬は冷え切っていたが、流れる涙はどこまでも熱かった。
「……ヒロちゃん、なんで?
私が悪くないなら、どうしてそんなこと言うの?
私、ヒロちゃんがいなきゃ嫌だよ……。
別れるなんて、考えられない!」
嗚咽(おえつ)まじりに訴えるアスカは、ヒロトにとって、雪よりももろい存在に映った。
「ちゃんと話すから、部屋戻ろう?
雪もこんなに降ってるし、風邪、ひくだろ?」
ヒロトは言い、うつむくアスカの手を引いた。
ほんの数分でひどく泣き疲れたアスカは、黙ったままヒロトに誘導される。
そういったヒロトの優しさや気遣い、手のぬくもりは以前と何ら変わりないのに、今では、アスカの心を闇に染めるトゲでしかなかった。


