こわれもの


どんな時も、ヒロトはアスカとの約束を破ることはなかった。

多少眠くても、アスカが会いたいと願えば、彼はすぐさま車を飛ばしアスカに会いにきた。


しかし、夏休みが明けてここ数週間、ヒロトの様子が変なのだ。

アスカは、自分にマイナス思考のクセがあると分かっていたので、そういったことを深く気にしないように、バイトや学校に頼り、気持ちをコントロールしていた。

ドタキャンされた後も、ヒロトと顔を合わせれば、以前と変わらず楽しい時を過ごせる。


だがアスカは、前にはなかった違和感を覚えていた。

目に見えない不穏な何かが、一歩一歩、こちらに向かって着実に近づいているのを感じる……。

これが、第六感による察知とでもいうのだろうか。

視覚でも、触覚でも、聴覚でもない。

心、あるいは脳が、知りたくない事実を感知し、アスカは戸惑いを感じている。


ヒロトの前ではそんなそぶりを見せず、今までのように振る舞ったが、学校でのアスカは、常にヒロトのことで正体不明の不安を感じ、暗くなっていた。

「一人でウジウジ考えてたって、仕方ないだろ。

ドタキャンした理由が気になるなら、直接ヒロトに訊けばいいじゃん。

考え込む前に、本人とちゃんと話し合え」

マツリの直球アドバイスにも、

「そうだね……」

アスカは力無い声で反応するだけだった。

「返事が素直過ぎて、お前っぽくないな……。

別に、何か問題があったわけじゃないだろ?」

らしくなくマツリはフォローしたが、アスカはうつむき、口をつぐんでしまう。