奇跡事【完結】



「キョウ、今だ!」

「それじゃあ、ルーイが」

「いいから、やれ!!」



躊躇している間に、エレノアは姿を消してしまう。
拘束していられるのはきっと、ほんのわずかだ。



「ふふ、遂に来たのかしら」


体を拘束されているというのに、エレノアは嬉々としてそんな言葉を発する。
待ち望んでいたんだ。
エレノアも。


―――――死ぬ事を。



「でも、死ぬのなら一人で十分よ」


そう言うと、エレノアは僕の体を弾いた。
手が離れ、僕は突き飛ばされる。


掴もうと手を伸ばすが、それは無情にも宙を舞うだけだった。



――――――――ルーイ。私の可愛い息子。



そんな声が僕の頭に響く。


そこからは全てがスローモーションに見えた。
キョウが剣でエレノアの体を深く突き刺すところも。
倒れる瞬間も。



――――――――ひとつ教えてあげるわ。まだルイードは生きている。


ルイード?
それって、魔物を倒して勇者と呼ばれた?




――――――――そして、魔物も生きている。



魔物、も?