奇跡事【完結】


「マークおじさんも、あの男の事知ってたよね。
もしかしたら、私達って何も知らなかったのかな」


サーシャも僕と同じ事を考えていたらしい。
それに、思案顔をしたキョウは顎に手を当てるとサーシャの言葉を肯定した。



「そうだね。きっと、俺達は何も知らなかった。
もしかしたら、知らされていなかったのかもしれないな」

「知らされていなかった?」


僕は眉を顰めると、キョウに尋ねる。
キョウは小さく頷いた。


「そう。外の世界が危険だって事だけは知ってた。
それはもしかしたら、何も知らせない為に閉じ込めていたのかもって」

「何のっ…、何の為に!」

「あくまで俺の仮定の話。事実はどうだかわからないよ。
だって、その事実を知る人はもう……誰もいないのだから」



眉を下げてそう話すキョウに、僕とサーシャも俯いた。


優しかった村の皆。
その皆は一瞬にしていなくなった。


僕達が少しだけ村から離れていた、ほんの少しの時間の間に。