「いつだか覚えてはいない。
だけど、まだ幼かった時だ。
その時ルーイとサーシャがいなかったから、一人で森に遊びに行く事にしたんだ。
サーシャの好きなクサイチゴを採ってこようと思ってね。
だけど、その道すがらに一人の女の人が立っていたんだ」
「……」
キョウは片足を立てると、そこに腕を乗せて話す。
声を張り上げてるわけでもないのに、薄暗く、静かになってしまったここでは、その声は良く通った。
「不気味だったよ。子供ながらにそう思った。
ローブみたいなのを被ってたから、よく顔も見えなかったし。
隠れようとしたんだ。でも、見つかっちゃって」
僕もサーシャも固唾を呑んで、キョウの言葉に耳を傾ける。
「“どうしたの?僕。これが欲しいのかい?”って、そうやっていくつか手に持っていたクサイチゴを俺に手渡してくれた。
俺はおそるおそる、その人に近付いてクサイチゴを受け取った。
心の中でよかった、きっとサーシャは喜ぶ。そう、思ったんだよ」
一旦、そこで切るとキョウはサーシャへと視線を向ける。
それから、静かに口を開いた。



