奇跡事【完結】


グサリ。


キョウの出した短剣は命中した。

彼の、左手に。



思いっ切り、剣が手を貫通してるというのにその男は表情を変える事ない。
寧ろ、微笑みを携えている。


キョウも微動だにしない男に、意表をつかれたのか、短剣を刺したまま固まっていた。


そのキョウの腹をその男は蹴り上げる。
呻き声と共に、キョウは後ろにいとも簡単に飛んだ。


「キョウ!」

「ぐ、ゴホ、っ」


咳き込むキョウの元へ走り寄って、僕はその体を支える。



「……俺を殺したければエレノアを殺せ」



エレ、ノア?


誰だ、それ。


訝しげな顔でその男を見れば、左手に刺さった短剣を躊躇なく抜き取りこっちへと放り投げた。
カランと、音がして血まみれの短剣が転がって来る。


短剣から再びその男に視線を戻した僕とキョウは、それを見て思わず息を呑んだ。


さっき、短剣が貫通した筈の左手。


そこにはもう、傷痕がなかったからだ。