自分の家に戻った私は酷く冷静だった。
ずるい私は権堂さんに弱い男と嫌われたくない一心で志願は取り下げずに今日まで来た。
だけど今は、数時間後にある最終の身体検査で醤油を飲んで高熱を出す準備をしている。
【行きたくても、行けなかったんだ】という事実を作ることに決めていたのだ。
検査の直前、私は大量の醤油を飲んだ。半信半疑だった。だけど、飲むことを止めることは出来なかった。
結果、大量に醤油を飲むことで、高熱が出て戦争に行かなくて済んだ。
だけど、私は大事な人と離ればなれになった。
権堂さんが戦場に行ってから、私は権堂さんの愛した希実子さんを何度も抱いた。
抱くことで忘れたかった。
同じように、彼女も救いたかったからだ。
だけど、いま思えば、私は権堂さんと同化したかっただけなのではないか? と、思う。
それに彼女は私なんか見てもくれていなかったことが後になってわかる。
一緒に毎日を過ごすことで私はどんどん希実子のことを好きになったが、お互い多くのことを語ることはなかった。
語れなかったのだと思う。
考えていることを話すにはお互い悲しいことばかりだった。
私たちは体を重ねることでしか愛せなかった。それを彼女は受け入れてくれた。
だから、私は彼女だけを見ることが出来た。権堂さんが戦場に行った時から、生きる意味があるのだとすれば、それは希実子であった。そして、彼女も同じように思っている。そう思っていたのだ。
戦争が終わって、権堂さんは小さな箱になって帰ってきた。
その日の夜、部屋に戻ると希実子は首を吊って自殺をしていた。
私は、ぶらさがる希実子を抱きしめることが出来なかった。あんなにも愛した希実子の死体に。
気が付けば大量の醤油にまみれていた。希実子のように死ぬ勇気はなかった。醤油を浴びるようにして飲むことしかできない。あの時と同じだ。戦場に一緒に行く勇気はなかったし、今は、好きな女と一緒に死ぬことも出来ない。
私はずるくて薄汚い男だ。そんな私を愛してくれていたと思い込んでいた私は、なんて都合が良くて、愚かなんだろう。
あのとき一緒に行けば、ずっと一緒にいれたのではないのか。
今死ねば、ずっとこの女と一緒に居られるんじゃないのか。
なのに私は、頭から醤油をかぶることしか出来なかった。
ずるい私は権堂さんに弱い男と嫌われたくない一心で志願は取り下げずに今日まで来た。
だけど今は、数時間後にある最終の身体検査で醤油を飲んで高熱を出す準備をしている。
【行きたくても、行けなかったんだ】という事実を作ることに決めていたのだ。
検査の直前、私は大量の醤油を飲んだ。半信半疑だった。だけど、飲むことを止めることは出来なかった。
結果、大量に醤油を飲むことで、高熱が出て戦争に行かなくて済んだ。
だけど、私は大事な人と離ればなれになった。
権堂さんが戦場に行ってから、私は権堂さんの愛した希実子さんを何度も抱いた。
抱くことで忘れたかった。
同じように、彼女も救いたかったからだ。
だけど、いま思えば、私は権堂さんと同化したかっただけなのではないか? と、思う。
それに彼女は私なんか見てもくれていなかったことが後になってわかる。
一緒に毎日を過ごすことで私はどんどん希実子のことを好きになったが、お互い多くのことを語ることはなかった。
語れなかったのだと思う。
考えていることを話すにはお互い悲しいことばかりだった。
私たちは体を重ねることでしか愛せなかった。それを彼女は受け入れてくれた。
だから、私は彼女だけを見ることが出来た。権堂さんが戦場に行った時から、生きる意味があるのだとすれば、それは希実子であった。そして、彼女も同じように思っている。そう思っていたのだ。
戦争が終わって、権堂さんは小さな箱になって帰ってきた。
その日の夜、部屋に戻ると希実子は首を吊って自殺をしていた。
私は、ぶらさがる希実子を抱きしめることが出来なかった。あんなにも愛した希実子の死体に。
気が付けば大量の醤油にまみれていた。希実子のように死ぬ勇気はなかった。醤油を浴びるようにして飲むことしかできない。あの時と同じだ。戦場に一緒に行く勇気はなかったし、今は、好きな女と一緒に死ぬことも出来ない。
私はずるくて薄汚い男だ。そんな私を愛してくれていたと思い込んでいた私は、なんて都合が良くて、愚かなんだろう。
あのとき一緒に行けば、ずっと一緒にいれたのではないのか。
今死ねば、ずっとこの女と一緒に居られるんじゃないのか。
なのに私は、頭から醤油をかぶることしか出来なかった。



