地球の三角、宇宙の四角。

いよいよ戦場に行く日が近くなるにつれて、私の決意は揺らいでいった。丁度、自分の年齢が辞退も出来るし志願できる年齢であったからだと思う。

どちらを選ぶことも出来る。

戦場に行く前日の夜。
権堂さんと飲み慣れない酒を飲みながら将棋を指した。

冗談で酒に口を付けることは、これまでもあった。

小さな湯飲み茶碗に少しだけ注いで一手指すごとにそれを飲み干すという。本格的な飲み方をした。もちろんそんな飲み方は、お互い初めてだった。

会話はほとんど交わすことなく、権堂さんはほとんど考えずに次々と指していっては、茶碗の酒をぐいっとあおった。

その日の権堂さんは棒銀で一気に攻めてきた。

この戦法は、銀を歩がサポートしながら、相手陣内に飛び込んでいくという無謀ともいえる速攻型の攻め。

その、あまりのスピードに私の角は逃げ場を失い。あっという間に追いつめられた。

「オマエさ、手加減すんなよ」

うつむいたままボソリとつぶやかれた。

私は真剣だった。もしかすると、これが最後になる。そう思って勝負に挑んでいたからだ。

「オマエさ、自分から志願したんだってな」

答えることが出来なかった。

権堂さんと一緒に行きたい。 だけど、死にたくない。


揺れていたかった。だけど本当は決めていた。

私はその気持ちを最後まで隠した。

権堂さんは、私を抱こうとした。酒に酔っていたとしても嬉しかった。

だけど、権堂さんのキスは冷たくて、私を抱きたいのではないのだと思った。私の気持ちに応えるやさしさだけを受け取って、私は権堂さんの家を飛び出した。

これ以上好きになるのが怖かった。

憧れの一線を越えてしまうのが怖かった。