「はゆみ、はゆみ! どうしたの?」
「はえ?」
「はえ? じゃないわよー。まーた、自分の世界に入ってたでしょ?」
「え? いや、考え事。この幸村総一郎についてなんだけど」
「ん? ……なにか関係があるの?」
関係があるのかないのかはわからない。
だけど、この今の私の状況をキッチリと説明してくれるような、そんな人物がいるのだとしたら、3人しか思い浮かばない。
平純一、ジョンタイター、幸村総一郎。
しばらく黙り込んでいると、さおりんは、
「はゆみ、知ってどうなると思う?」
と、真剣な顔をして聞いてきた。
「どうなるって……」
「はゆみは、知ってどうするつもり?」
「元に……元に戻りたいと思う」
さおりんの顔が固まった。無理もない。記憶障害、部分的な記憶障害というレベルの話ではない。
さおりんは、頭ごなしに私の妄言を否定することなくこうやって資料まで持ってきてくれた。
なのに、その当人の私が私を否定して“戻りたい”といっているのだ。
私の話を信じるといった言葉。あれは、私の言葉に対してではなく私自身に対しての信じるという言葉であり、今“戻りたい”という言葉は、彼女の気持ちを否定することになるのだろうか。
「はゆみ、戻れるとしたら、もし、戻れるとしたらだよ」
「うん」
「今私が話をしているはゆみは、どこにいってしまうというの?」
今、私の考えてること、それはあくまでも仮定ではあるんだけど、全てを話してみようと思った。
「さおりん、笑わないで聞いてくれる?」



