地球の三角、宇宙の四角。

「黒い物体というのが、どういうものがわかんないんだけど、昨日の話そのまんまの条件を満たすのが、これなのね」

さおりんは、束の中から資料を取りだして渡してきた。

「黒い物体に取り込まれて消える現象と、消えたその先について……って何これ? さおりん?」

「うん。その現象って、どうもワームホール? のことらしいんだけどさ、そのことについて、まじめに語ってるサイトって平純一のサイトだけだったのね。正確には、平純一を支持する会ってのが作ってるサイトなんだけど、知ってる?」

「聞いたことがあるような、ないような」

「知ってるの? あっし、知らなかったんだけどさ、この現象をお化けとか怪物という解釈でなくてまじめに? 書いてあるのがこの人のサイトだけだったのね……」

さおりんの説明と資料によると平純一という人物は、1999年の7月の一ヶ月の間にだけネット上に存在した。“未来から来た人物”である。

1999年といえば、インターネットが現在ほど普及しておらずまだ、ピーガーピーと鳴るモデムによる電話回線が主流であり長時間閲覧するには、結構な金額がかかる時代だった。

そこで、テレホタイムという深夜から朝方にかけての時間帯だけ通信料定額というサービスが登場したのだが、そのせいもあり日本のネット文化はコアで、アンダーグラウンドな情報が飛び交う混沌としたスタートをきることになった。

巨大掲示板2ちゃんねるが出来たのが1999年5月30日。そういう時代である。

その巨大匿名掲示板のオカルト板に、平純一という固定ハンドル名の書き込みがされた。
当時、釣りという概念はまだなく、釣り乙と流されることはなかった。それにニュース速報板ではなく、オカルト板ということもあり、板の住人のほとんどが、そのセンスを面白がり、大事に扱った。