こんなことって、あるのだろうか。
「ごめん、さおりん。昨日の話って、ここで? だよね……」
「なにいってんの?」
「何って・・・」
「昨日3人で残業してたじゃん」
「3人?」
「私と課長は先に帰ったけど」
「課長……」
課長という言葉がスイッチを押して、2人きりになった昨日の記憶が蘇った。
「はゆみひとりにするんじゃなかったよ。朝、病院の名前聞いてビックリしたさ」
さおりんの顔からは嘘の匂いはしない。昨日の出来事は夢なんだろうか、頭の奥がズキズキと痛む。携帯電話を見ると昨日と同じ日付だ。更に履歴を探ると昨日見たまんまで、軽いめまいがした
「あの……あたし、何の話した? ごめん」
「いや、わたしこそ、ゴメン。はゆみを信じるとか言いながら……昨日はね、何を突然言ってるんだろうって……、でもさ、今日になってはゆみの入院のこと聞いてからね、朝から調べたらさ、色々わかったよ」
信じるという言葉。昨日。昨日ではないのか、さおりんが私に言った言葉。
手に取った資料をパラパラとめくる。めくりながら、さおりんに昨日何があったのか詳しく聞いてみることにした。
「ごめん、さおりん」
「なに?」
「昨日から今までの記憶が、ところどころでしか思い出せないの」
「私もそう言うことあるよ」
意外なことを言った。
「さおりんも?」
「うん。先輩が水商売しててね、このまえ店の1周年があって、手伝いに行ったら見事につぶされたねー
朝、店のソファで起きて、あせったー」
何を言い出すのかと思ったら、さおりんは私の記憶障害がそれほど珍しくないということを自分の体験談で元気づけようとしているのだろうか、さおりんはいつだってやさしい。



