見たことのない窓。

目が覚めると夕方だった。

胎児のような格好で、まっすぐに射しこむ夕焼けが目に映って、ギシギシと頭の奥の方が痛む。

なぜこんな所で寝ていたのか、自分が今どこにいるのだろう。のそのそと胎児の姿勢から首を上に向けると、見たことのない白い天井があった。

目に焼き付いた夕日の残像なのか、白い天井の視界の中心には黒くて丸い影が見えた。それは視線を左右に振っても、どこまでも付いてきた。

夕焼けの残像の黒から、メガネのない幸村さんの顔が浮かんだ。まるで消えたモニターに映った自分の顔のように幸村さんの顔がはっきりと浮かぶ。

周囲を見回すと白い壁には視線をズラしてもどこまでも黒い残像がついてまわった。

私は、私の知らない部屋で、発狂をしていた。

発狂をしていたというのは、おかしい。


だけども、じたばたと喚く自分のことをなぜか客観視している自分が居る。

俯瞰しているというよりも、自分の体の中に本能と理性が混在しているのではなく別離しているといった具合に。

今、暴れているのは本能の部分で、理性は今を観察することぐらいしか出来ないでいた。自分の行動とは真逆の冷めた状況になんだか気味が悪い。


背中のほうから声がする。

「木下さん大丈夫ですか」

と、その声の主に取り押さえられる。

見ると細くつり上がった目をした女の人は笑っていた。

この人は誰だろう? 知らない人だ。

私のことを笑うな。