ふれた場所は、ふれる前から震えていて、小さな玉のような部分を触ると、生きた小鳥の心臓のようだった。恥ずかしいと顔を背けた横顔、首筋、小さな肩にている見惚れていると枕で顔を隠されて消えてしまった。
「綺麗だよ」と言ったときには、自分が今どこにいるのかを見失った。
枕をどけるのにそんなにチカラはいらなかった。横顔をなでて、いよいよ入っていく時には、冬の寒い身体を湯船に付けていくような、そして行為中は何度も全身に痺れを伴うような衝撃と、多幸感が同時に襲ってきた。他の誰とも違う感覚に我を忘れ、やっぱり他の誰とも違うこの人だと確信をしてしまう。
これは魂を交換する行為だということをどこかで聞いたことがある。お互いがお互いをただ差し出しているだけではなくて、受取手がどこまでも受け止めてくれると感じたときに、はじめて全てを差し出していけるのだと感じた。
目が覚めてからも、はゆみちゃんはそのままで、毎日がこんな朝なら良いのにと思うと悲しくなった。やっぱりどこかで、この人は居なくなってしまうと自覚をしているのだ。彼女は全然怖くない夢を見たと笑いながらいう。その夢の内容は、映美と去年の秋にハイキング行ったときの内容で、僕が先日『しょうゆ』に、同じ場面を書いていた。
内容は小説に書いている部分。
僕の書く小説はあまり嘘が無くて実体験を元に書いている。そのままだと恥ずかしいのでBLということにしているが彼女の話す内容は、驚くことに事実を少し誇張して書いた内容そのままだった。違っているのは僕が書いたのが枯れBLという特殊なジャンルということぐらい。
「へー」と返事をしながらも動揺を顔に出すまいと努力をする。
彼女が思い出すように話をしているその内容は、向こうの世界でもあったことなのだろうか。
それとも映美がこの人に見せた夢なのだろうか。
「あのとき俺が作ったおにぎりが堅いとか、もっと空気を含んで握れとか……」
このまま話を続けるべきか。
これから話そうとしている部分は小説には書いていない本当にあったことで、彼女が映美でないのなら残念ながら知らないのだろう。
「……文句ばっかり言ってたんだけどな」
意地悪なことをしている。悪気はない。だけど確かめてみたくなった。何が解るのかまでは考えてないのだけれども。
「……だから、ほとんど俺が食べたんだけどな。あれさ、二合ぶんだぜ二合」
朝っぱらからバカみたいなトーンを作って呑気に話をしているが彼女に、僕が彼女の話を信じていない、彼女の変化に気が付いていないと思わせてどうする? だけど、この平和な感じが続くのなら、嘘でも何でもそれが一番良いと思った。
この目の前の人は僕のことをまるで知らない。僕も、この人の事をそれほど知らない。
自分から何かを話し始めようとする前に、別れ話を切り出すような真面目な顔をしながらボソボソと目の前の人は語り出した。



