好きな人を目の前にし、部屋に入ると、すぐに抱きついてしまう。もう辛抱の限界で何か言おうとした口はそのまま塞いだ。抵抗しようとする身体も、動けなくした。
「もう何も考えなくてもいいし、何も思い出さなくていいから」
眼球がキョロキョロと左右に振れている。どうにか不安を取り除いてあげたかった。抱きしめた身体は折れそうなぐらいに弱々しくて華奢に感じた。
「もう何も考えなくてもいい。何も思い出さなくていい」
同じ事ばかり何回も言ってしまう。瞳の奥にはまだ恐怖の色が見える。自分に一体何が出来るのだろうか、何をしてあげられるのか、たとえ取り除けなくてもいい。僅かな時間でも忘れさせてあげれないのだろうか。
「無理に思い出す必要なんか無い」
忘れたいのだ。自分が。
これまでとか今までとか、そんなものはなくなればいい。今ここから始めたいと思う。
両手を握ってみると指先は冷たく、口元に近づけてみた。
「もう何も考えなくていい」
「もう何も思い出さなくていい」
指先にキスをし、このまま、どうかこの胸の奥の気持ちがこの指先から伝わればいいと思う。
指先から手の甲へ頬をつけて、逃げようとする身体を引き寄せて強くキスをしたままベッドまで運んだ。
薄汚れたスリッパを脱がせると、指に冷えた足先が当たった。
「足が、冷たい」
そのまま冬のガラスのような足の裏に頬を当てた。ただただ、全てを愛おしく思う。
「汚いよ」
という声、その顔。この人がずっと側にいてくれたら、どんなにいいことか、こんな冷たい部屋じゃなかったら、どんなにいいことか。
「はゆみに汚い部分なんてないよ」
本当に、心の底からそう思う。
足先にキスをしてからガリッと噛んだ。
「痛い?」
恥ずかしそうに身をよじる。ばたつく足。その足を無我夢中でほどいたネクタイで縛り、両足を自分のシャツの中に潜り込ませて足の裏を胸に当てた。
この胸の高鳴りとこの気持ちがどうにか直接伝わってはいかないものなのかなと真剣に思う。
言葉なんて信用できない。仕事柄、自分の欲しい結果の為なら、あることないこと何でも言ってきた。
なんとだって言える。
だから言葉とは違う形でどうにか伝わらないものかと祈るように足首を掴んだまま胸に押し続けた。
「もう何も考えなくてもいいし、何も思い出さなくていいから」
眼球がキョロキョロと左右に振れている。どうにか不安を取り除いてあげたかった。抱きしめた身体は折れそうなぐらいに弱々しくて華奢に感じた。
「もう何も考えなくてもいい。何も思い出さなくていい」
同じ事ばかり何回も言ってしまう。瞳の奥にはまだ恐怖の色が見える。自分に一体何が出来るのだろうか、何をしてあげられるのか、たとえ取り除けなくてもいい。僅かな時間でも忘れさせてあげれないのだろうか。
「無理に思い出す必要なんか無い」
忘れたいのだ。自分が。
これまでとか今までとか、そんなものはなくなればいい。今ここから始めたいと思う。
両手を握ってみると指先は冷たく、口元に近づけてみた。
「もう何も考えなくていい」
「もう何も思い出さなくていい」
指先にキスをし、このまま、どうかこの胸の奥の気持ちがこの指先から伝わればいいと思う。
指先から手の甲へ頬をつけて、逃げようとする身体を引き寄せて強くキスをしたままベッドまで運んだ。
薄汚れたスリッパを脱がせると、指に冷えた足先が当たった。
「足が、冷たい」
そのまま冬のガラスのような足の裏に頬を当てた。ただただ、全てを愛おしく思う。
「汚いよ」
という声、その顔。この人がずっと側にいてくれたら、どんなにいいことか、こんな冷たい部屋じゃなかったら、どんなにいいことか。
「はゆみに汚い部分なんてないよ」
本当に、心の底からそう思う。
足先にキスをしてからガリッと噛んだ。
「痛い?」
恥ずかしそうに身をよじる。ばたつく足。その足を無我夢中でほどいたネクタイで縛り、両足を自分のシャツの中に潜り込ませて足の裏を胸に当てた。
この胸の高鳴りとこの気持ちがどうにか直接伝わってはいかないものなのかなと真剣に思う。
言葉なんて信用できない。仕事柄、自分の欲しい結果の為なら、あることないこと何でも言ってきた。
なんとだって言える。
だから言葉とは違う形でどうにか伝わらないものかと祈るように足首を掴んだまま胸に押し続けた。



