聞いたことのない住所を運転手に伝え、運転手は首をひねる。身を乗り出してカーナビを触っている彼女を見ると、いよいよ伝えるべきなんじゃないだろうかと、見ていられなくなった。
2人はパークアベニュー通りと236号線の交差点という妥協点を見つけて車は走り出したのだが、このままそこについてしまっては、このはゆみちゃんは、どうなってしまうのだろうか、流れる景色がいつもと違って見える。いま、どんな顔をしているのか確認が出来なかった。また消えてしまっているのかもしれないと思うと怖かった。繋いだ手を離してしまったらまた消えてしまいそうで、また強く握った。
車がしばらく進むと見覚えのある道にさしかかった。この道を通るといつも、あれはどうなってるんだろうかという場所があって、この先を曲がると山道に入って、そこには一度入ってみたいなと思っていた建物があった。たぶんラブホ。
「ここでいいです」
脳と下半身がガッチリと直結をした。このまま彼女の告げた場所に車が到着して、彼女はそこで一体どうなってしまうのか、ここで降りるというその選択肢、大賛成ですと全身が賛成をした。
運転手に千円を渡して、歩き出したが、車での距離と歩く距離はなかなか違う。
結構な坂道を二人して無言で歩いた。



