地球の三角、宇宙の四角。

困惑している僕に抱きついた彼女は「かなくんも、どこにも行かないで」という。

震える彼女に、どう声をかけて良いのかが解らなかった。そりゃそうだろう。気が付いたら病院を出ているのだ。混乱もするはずだ。

「だいじょうぶだよ。はゆみ」

なにが大丈夫なのだろうか、自分にも言い聞かすようにして抱きしめた。いったい何が大丈夫なものか。

「わたしはこのままがいい」

「だいじょうぶだよ、どこにもいかない」

この、腕の中にいる人は、さっきまで、どこに行っていたのだろうか、どこに隠れていたのだろうか?

ぐっと腕にチカラを込められる。僕もそのまま同じぐらいのチカラで返した。

道行く人の視線を感じる。人間が生きていれば、こんなシーンの一回や二回はあるんだよ。ああ、そんな頃もあったなとか、ない人はこれから来るんだから、ちょっと今日の所は道行く皆さんは、華麗にスルーして頂きたい。

腕の中から「あれ? あれ?」という声がして引きはがされる。

顔を見たら映美がいた。「あれ? ここ、あれ? なんで? あれ?」

不思議そうに僕の顔を見ながら病院に戻らないと、手術をしないとなんて言う。

「手術は、明日の昼からだよ、また、記憶が飛んだ……の?」

「え? 明日?」

「何処まで覚えてる。いっしょに、ついさっき病院から出てホラ」

来た道を振り返りながら指差した。なんとなく納得したような感じでふうんとだけ答えて、いよいよ、ぶつぶつと記憶が飛ぶようになってることにもなれてきたかのように「またか」と、寂しそうに言った。