さっき膨らんでいたのは熱膨張によるものなのだろう。
金属が、熱で伸びたり縮んだりするものだとはわかっているが、こんなにもまっすぐに戻るもんなんだろうか、と色んな角度から真っ直ぐ、元通りになっているiphoneを見ていた。
『夏と冬では鉄道のレールの長さの差は数十㎝になります』
すると、いきなりしゃべり出した。なんだ、なんなんだこの雑学機能。
『レールのつなぎ目を斜めにカットすることで熱膨張の差を調節しています』
「だれ?……。 ですか?」
「エミリー」
「エミリー?」
向こうから看護師が手に熱さまシートの箱を沢山持って歩いてくる。それに反射的に手を挙げて「大丈夫になりました」と告げ、反対側を向いてiphoneを耳に当てると、ものすんごい熱い。
そのままトイレに駆け込んで、水道から手の平に水をすくって耳にあてがう。
「状況として、あなたが思っているとおり」
耳を冷やす僕にiphoneが話しかける。なにをわかってるというのだろうか、何も話してもないのに。
「電池が無くなりますので、オチます。またピンチの時は現れますのでのし」
「のしってなんだよ! うわ消えやがった、なんなんだよ」
カバンの中に10000mAhのモバイルバッテリーが入っているのを思いだす。
「電池が切れたら充電すりゃいいんだよ。って、誰なんだよ!」
ブラックアウトしたiphoneに対して全力のシャウトがトイレの中に響く。
「誰なんだよ!」
エミリーという電子音が頭の中に流れる。
「エミリーって誰なんだよ」
……外人? 外人の女の人なのかな。
勝手に出て来て勝手に消えた。
何度かエミリー、エミリィ~と呼びかけてはみたがまるで反応はなかった。



