すると見たことあるさっきの看護師さんが立っていた。
「あれ? マキちゃんが喋ってる」と、キツネにつままれたような顔をして、というかもともとキツネみたいな顔をしているのだけど、うわごとのように言い、惚けていた。
手術の件についてなのか、この様子だと一部始終は見ていないのか、針と白い糸があれば少しだけもらえないかとお願いをした。
両手を開いて手の甲を見せるようなガッツポーズの姿勢を取って、「ただいまよりふわふわくんの背中および腹部の緊急接合バチスタ手術を行う」とかっこをつけて言ったが、女の子、名前はマキちゃんなのかな? には、軽く無視をされた。
手術という言葉で、綿を優しく詰め込んでいた指先が止まり、映美の顔が曇った。
「執刀医、木下映美」
映美は、びくっとしたあと僕と同じポーズを取り、タイミング良く現れた第一助手の渡す簡易裁縫セットのケースを受け取った。
マキちゃんの心配そうな顔に見守られながら、ゆったりと無駄のない動きでちくちくと縫い始めた。



