地球の三角、宇宙の四角。

エレベーターに、ふたりっきりで乗っている間中、無言だった。

無言で数字が減っていくのをお互い眺めていた。

23,22,21……。

数字が減る度にドキドキが増す。
ここは空気の読める社会人2年生として、二人っきりは初めてですね。とか。

この部署では私が先輩でもあるわけだから慣れましたか? とか。

ダルビッシュすごいですねという話とか。

原発についてどう思いますか?とか、しなくてはいけないのだろうか? 

休みはなにしてるのだとか……私は何をしていたっけ?

なにか会話を探そうとするが、幸村さんはそんなようなことは一ミリも考えてない様子で、美人特有のマイペースさを保っていた。

別に年下の私が気を使うモノでもないのか、いや年下だからこそ何か……なんて思ってるといきなり話しかけられてビックリした。

「あなた、課長のこと好きでしょ?」

なにを言うとるのだ君は! 急に、と。私は思った。

「あ、あ~の人は苦手ですね~。はははー。怒る人は苦手なんです。はははー」と声が裏返る。恥ずかしい。

「課長は、あなたのこと好きだと思う」

「ホントですか? ないですよ」

「私は課長のことが好き」

「え?」

「なんてね」

「え?」

「冗談」

「ええ?」

「ちいさい男はキライ」

真顔で、表情も変えずに冗談を言うなんて、なんて凄い人なんだろう。
スベリ保険とか、そういうのは掛けないのだろうか? と、感心しながらその横顔を、じっと見つめている間にエレベーターは1Fに着いた。

エレベーターから降りた幸村さんはあたりをキョロキョロと見た後に、鼻をくんくんと鳴らした。

私も真似してみたが特に変な匂いはしない。