話を聞いたかなくんは、「たとえそうであったとしても俺は、はゆみのことが好きだ」と言った。


「最悪、はゆみの言うように元々いたはゆみがいなくなったとしても、今こうして話てくれるのを嬉しく思うし、とにかく目の前にいるはゆみが好きだ。

どこにもいって欲しくはない。

それに、その夢で交わされた言葉なんだけど‥‥‥」

言葉が途切れる。かなくんの目は過去を見ている。そして私は今ここにいるこの人の過去を見る目を見ている。

「さっき話てくれた会話は春に僕達がした会話だ。

だから、もう‥‥‥」


また言葉に詰まる。

何も言葉が浮かばないのは私もだ。私は何も覚えていない。覚えていないのではない。私はそこにはいなかった。

自分が彼にかける言葉を探しながら彼の目を見る。

彼も私の目の奥にあるものを感じ取ったのか目には涙が浮かんできた。

わたしの視界まで歪み出した。ぐにゃり、ぐにゃりとじっとしている彼も平らな壁も波打つ。


「どこにも行かないでくれ、もう、どこにも行こうなんて思わないでくれ」

うなづくことしか出来ない。

「手術のことは1日待ってもらった、あんなに取り乱してたから‥‥‥」

そうだ。

いくら思い出そうとしても順番がわからない場面があった。なぜ、手術を受けずに病院から出たのかを私は昨日の夜、どうしてもわからなかった。

「1日待ってもらうって? 何があったの?」

「何?」

「なんであの時、病院に、かなくんがいたのかなと」

「ん?」

「なんで私は手術受けなかったのかなと、ごめんなさい。なんか」

「胸騒ぎというか、何をしようとしても手に付かないっぽくて、とりあえず会社に行くだけいって‥‥‥

頭を下げて今日やる仕事の予定を全部先輩に話してから、病院に来てみたんだ。気がくる‥‥‥いや、気が気じゃなかったんだよ。

手術前に‥‥‥暴れる君を見て、先生に話をして一日だけ時間をもらった」

窓枠に足をかけるシーンが蘇る。私は飛び降りても死なないと思っていた。なぜそう思ったのかがわからないが、これで元に戻れるとまで思った。かなくんは話を続ける。

「とりあえず連れ出す事にしたんだ。なんとかしないと。というか」

「で、なんでこのラブホなの?」

かな君は、わざとらしく部屋中をぐるぐると見渡し、頭をかいた。

小さな日本庭園を見ながら言葉につまりながらも、早口に話しだした。