彼女から煙草を一本貰ってから、色々な話を聞かせて貰った。

「あのあとね、理事長の書いた本をみんなの前で朗読して、それについての感想を絶叫するコーナーがはじまるのよ」

「毎朝やってるんですか?」

「まさか! 理事長が来たときだけね」

「よく来るのですか?」

「うーん。 年に数回ってところ。もうおじいちゃんですからね。でもさ、全員参加ってひどいと思わない?」

「ですね」

2人の煙草の煙がどんどんと灰皿に吸い込まれる。胸に付いた名札を見ると松波とある。今の今までこの人に全く興味がなかったのかと愕然としたが、それだけ自分の事で精一杯だったということなんだろう。

「松波さん」

「はい」

松波さんと呼んで松波さんは返事をした。はじめてだ。

「松波さんはどれぐらいこの病院に?」

「もうすぐ2年。 でもね3年勤めたらやめるって決めてるの」

「なんでですか?」

「ご褒美に、かな。 あたしね、ダメなんですよ」

「だめ?」

「働きたくないわけじゃないんだけど、辞めるために働いてるみたいなとこがあって」

「辞めるため?」

「そう。 あたし離島マニアなんだよ」