退屈だったから丁度良かったと女は言った。

無言だった彼女は病室には戻らずに私を喫煙所へと連れて行った。

「このあとは8時会か……」

チラリと腕時計を覗いてから独り言を吐きながら煙草を取りだした。

小さな喫煙室には誰もいなかった。真ん中に煙を吸い込む大きな灰皿が1台、それを囲むようにしてパイプイスが6つ。無理矢理パーテーションで区切ったような妙な部屋だ。

「さっきのはね、チョクゲンという全員参加のやつ。ひどくない? ここ救急病院なのにね」

「チョクゲン?」

いつもと雰囲気がまるで違う。昨日までの距離を置いた感じではなく、なんだか顔まで違って見える。気のせいだろうか。

「そう直言。理事長が直接しゃべるから。すごくない? あの声」

あの小脇に抱えたスピーカーから出るエフェクトかかった老人の声が脳内で再生された。たしかにすごい。

「あの、すいませんでした。なんだか」

「いいって、あんまり謝るとブサイクになるのよ。知ってた?」

「ほんとですか?」

「そうよ。 あたしあやまってばっかりだからこんなになってるでしょ?」

細くつり上がった目と私の目があった。こうやってじっくり見ると、この細い目もつるんとした顔によくなじんでいてバランスが取れているなと思った。ただ単に見慣れただけなのかもしれない。

じっと見ていると彼女は、真顔がぷるぷると崩れだしてぷっと吹きだしてから、自分の煙草の煙でむせはじめた。

ごほごほとむせる彼女に「大丈夫ですか」と声を掛けるが彼女は笑いながら「大丈夫大丈夫」と手の平をひらひらと見せつつむせ続けた。

「あー、なんかおかしくって」と涙を指で拭きながら「ごめんなさいね」とあやまった。

「あ!」と私は彼女を指差して、「あ!」と彼女も私を指差した。