家に帰るとお父さんが散歩に行こうと言ってきた。



「暑いなぁ。」



うちはお母さんが強いからお父さんは尻に敷かれている感じで気弱そうだけど、いざとなったら結構怖い。



「暑いね。」



蝉の声と、どこかの家の風鈴の音が聞こえる。



「なあ知ってるか雛子、蝉は地上に出てきて約1週間しか生きられないんだ。」



「知ってるよ?」




お父さんは少し笑うと、ちょうど立ってた大きな樫の木の下で止まった。



「いや、お前はわかっていない。ようは蝉が1週間しか生きられないと考えるか、1週間も生きられると考えるかの違いなんだ。」