このマンションから徒歩で二十分程度の彼女の実家は、何度来ても“でけーな"と感心すると同時に、あまりのでかさに慣れずにいた
「ただいま〜」
「お邪魔します…」
玄関に入るとすぐに駆け寄って来るのは、運転手の橋本さんだ
「お嬢様っ、連絡を下されば御迎に上がりましたのに…‼」
隣で苦笑する彼女は、未だに“お嬢様"と呼ばれる事を慣れていない
と言うより、自分は普通の大学生の“芦田りりか"で、それ以外の何者でもないと思っているのが事実である
そしてこうしてりりかの苗字が変わったのは、大学に入ってからだ
「そんな、あまり気を遣わないで下さい
歩いて数十分のところなんですから」
「…そうですか??
もし何か必要とあらば、お申し付け下さいね??」
「はい、ありがとうございます」
こうして謙虚な姿勢も、俺とすればりりかの好きなところの一つ
「あ、姉さん、お帰りなさい」
橋本さんと玄関で別れて、食卓がある部屋に向かっていると、前方から歩いてくるりりかの弟に出会った
「ただいま、鴻佑くん
変わりはない??」
「はい、みんな元気ですよ
…翔さんもコンニチハ」
少し睨んだ目をされる事はいつもの事
どうやらコイツは姉であるりりかが、姉として大好きみたいで、俺みたいな不良がりりかと付き合っている事が気に食わないらしい
コイツとは初対面の時から、こんな感じだ
別に屁でもねぇし、んな子供の睨みで怖気付くほど俺は落ちぶっちゃいねぇ
「よぅ、弟」
まぁ、顔を合わせればんな感じ


