「あ、橋本さんに連絡しないとっ」
いけないいけない、このまま前にいたマンションに向かってしまうところだった
慣れって本当に恐ろしい
「夜おせぇからここまで迎えに来てもらえよ」
母親の本命日であったあの日、春美さんの提案で同居することが決まると、その段取りは瞬く間に進み、次の週には引越しを済ませていた
卒業間際で転校は出来ないので、都心から高校に通うことになったのだが、やはり少し便が悪くなる
そこでまた春美さんの提案で、家から学校までを車で行けばいいと出たのだが、流石にそれは悪目立ちしてしまうし、運転手さんに手間をかかせてしまう
だから、家から都心の駅まで送ってもらい、学校の最寄駅で降りて、そこから歩いて登校する事に決めたのだ
その方が途中から翔くんと一緒に登校も出来るという理由も入っているのだが…本人はそこまでは知らない
その時からお世話になっているのが、常に安全運転を心掛けている、この道三十年の運転手の橋本さんだ
いつもニコニコ笑顔を絶やさず、話しやすい橋本さんとの車内は居心地が良い
そんな橋本さんに急いで連絡をしてから、駅前のベンチに座り来るのを待った
翔くんと前の様に一緒に生活が出来ないことは本当に寂しいのだが、彼が今の生活を勧めてくれたお陰で、また少し父との距離が縮まった気がするのだ


