校門でりりかを待っている時、彼女が正面玄関から出てきて、その表情に俺は驚いた


本当に楽しそうに心から笑うりりかを、俺は長い時間彼女と共に暮らしたというのに、初めて見たのである


それは唯一、彼女があんな不良の清水翔にだけ、心の底から気を許しているのだと物語っていて、俺が付け入る隙など端からなかった


“悔しい"と思った


だけど同時に、“敵わない"とも思った


「しゃちょーさん、一人で悶々と考えるより、私に愚痴ったら少しは気分が安らぐよ??」


「…どうして結花ちゃんが泣いてるの??」


ボロボロと悲しげに泣く彼女を見て、不思議に思った


「泣いてないっ…
これは目から出る汗っ…!!」


無理にも程がある言い訳に、俺は少し笑ってしまった


「笑うな〜…!!」


「ごめんごめん
…ありがとう、結花ちゃん」


きっと、泣かない俺の分まで泣いてくれているのだろう


隣の席に移動して静かに涙を流す結花ちゃんの肩を抱き寄せて、頬に伝わる涙を親指で拭った


「ちょっ、しゃちょーさん…!!
何すんのよっ…!!」


目に一杯の涙を流しながら頬を赤らめて恥じる結花ちゃんのお陰で、俺の心は振られたのにも関わらず晴れていた


多分、りりかの事を忘れるにはまだまだ時間が必要であろう


だけど、彼女と過ごした日々はきっと無駄では無かった


感謝の意を伝えるのは俺の方だよ、りりか


“沢山の笑顔と優しさを、ありがとう"


次また何処かで会うことがあるならば、必ずこの言葉を彼女に伝えよう


それまではゆっくりと時間に身を任せて、“良い思い出"になるのを待っている事にしようか───




──終──