まだ放心状態の私を、篠原さんはエレベーターに乗り込ませると、私の家がある階のボタンを押した


静かに上がっていくエレベーターの中、篠原さんは時計を見ながら話を始める


「会長が何故、貴方様の家をお売りになさらなかったのかお分かりですか」


その問いの答えを必死に探し出すが、どれもこれといったものは見いだせず、私は下を向く


「いえ…わかりません…」


どう考えても、父は自分を心底嫌っているということが頭から離れない


エレベーターが目的地に着き扉が開くと、篠原さんは、一直線に私の家のドアへと向かい、ポケットから鍵を出して私を中に入れた


懐かしい自分の家の香りに、胸がぎゅっと締め付けられる


ゆっくりと歩きながら部屋を見渡していくと、数ヵ月もこの家を空けていたにも関わらず、埃1つないことに疑問を抱く


そんな私にいち早く篠原さんが気づき、何も言ってもいないのに、その答えを発した


「全て、会長のお心遣いです
この家をお売りにならなかったのは、りりか様がもし、帰られたいと仰った時にその場所が無ければ困るだろう、と思われてのこと
家に埃が無いのも、りりか様がいつ戻られても良いように、常にクリーナーを呼ばれておりました」


篠原さんの衝撃的な内容に、私は言葉にならない驚きで目を大きく開けた