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一人暮らしのマンションのエントランスを出てすぐ、植え込みのブロックに腰かけている三浦さんの姿が目に入った。
面倒くさい……と思う間もなく、こちらに気が付いたらしい三浦さんが笑顔で小走りに寄ってくる。
そして満面の笑みでおはようと挨拶して横に並んだ。千沙なら絶対しないような造った笑顔。
だから俺も、へらっと笑う。
人懐こいと言われるそれは、いろんなことを遮断してたくさんのものから許される。
「この前、大変だったみたいだね」
「あぁ、千沙のこと? 明日には学校来るって言ってたし、だいぶ良くなってきたみたいだよ」
心配してくれたの? と問いかければ、三浦さんは曖昧に首を振った。
「なんていうか……、しろも大変だね。あんなんじゃ別れるに別れられないんじゃないの?」
「全然いいよそんなの。それに別れるつもりなんてないしね」
「え……、そうなの?」
不満げに瞳を瞬かせるのを見下ろして、俺はことさら強調した笑顔をつくる。