「千紗さぁ、もうやめにしたら? しんどいだろ」

軽いノリに見せかけて、本当は周りの空気を敏感すぎるくらい読んで気を使ってるところや、それをそうとは思わせない優しいところとか、一緒にいて、すごく楽なところだとか。

「――そうだね、もし次されたら考える」

曖昧に笑ったあたしに、木原は苛立った顔をした。どうせ、そんなことする気がないって、分かってるんだと思う。

「じゃあ今すぐ別れてこいよ、あいつ1組の三浦とも浮気してんぞ」


――しろが、好きだった。

優しいところが実はどうしようもなくだらしないしろのただのその場しのぎの自己防衛だと気づいた後も。

あの人の優しさは、万人に向けられるけれど、一番優先されるのは誰よりもあの人自身なのだと知った後も。


「……三浦さん」

「さっきの藤井先輩とさ同時に三股かけてたのか、おまえに『もうしない』って泣きついたその足で関係持ったかどうかは知らねぇけど」

「うん」

「どっちにしろ最悪だろ。同じ男としてどうかと思うよ。有り得ねぇだろ。俺、城井は絶対、おまえを幸せにしないし、する気もねぇと思うよ」


反応の薄いあたしに焦れたのか、険を含んだ声で木原が急かしてきた。

二股とか三股とか、それこそ今更な気もするけれど。そうか。本当にあたしの言葉はしろに響かないんだな。


――幸せか。

ふっと窓から見下ろした先に校舎の陰を歩く、しろの背の高い姿が入った。

その隣に寄り添うようにして歩く明るい栗色の女生徒の姿があった。
あたしとは違う短いスカートに違反ギリギリのおしゃれに着崩した制服。
強調された胸元もきれいに施されたメイクも全然あたしとは違う。

三浦さんは当たり前の顔でしろにじゃれついていた。
そしてそれは10人並みのあたしがしろの隣に並ぶよりもずっとずっと自然で似合って見えた。