「城井、また浮気したんだろー。今度は相手誰だよ」

昼休み、にやにやと話しかけてきた木原に、あたしは内心、またかと小さく溜息を漏らした。うん、ついこの間も聞かれたんだよね。あれ、何ヶ月前だっけ? もしかしたら1ヶ月も経ってなかったかもしれない。


「3年の藤井先輩。ここ最近の中じゃ一番美人だった」

「マジかぁ、藤井先輩、うちの部の人たちも狙ってる人多かったぞー」

そこまで派手ってわけじゃない清楚系な美人の藤井先輩に憧れてる男子は多い。

しろと並んでいるのをみても、あぁきれいな人だなとあたしも素直に思った。
ただ見る目ないなぁとも思ったけど。そいつ、顔だけで渡り歩いてる浮気野郎ですよなんて、あほらしすぎて言う気も起こらなかった。

っていうか、あたしが言える台詞じゃないか。


「千紗もさぁ、なんで別れねぇかな。どこがいいわけ、あいつの」

「……」

「思い浮かばねぇのかよ。おまえらいつから付き合ってんだっけ。高校入ってすぐくらいからだったから、うわ、もう1年半くらい経ってんじゃん」

「……すごいね、あたしも気づいてなかったかも」


一年の時のクラスが一緒で石筍が隣で、なぜだか知らないけれど懐かれて。まとわりつかれるのが当たり前になってきた6月だったと思う。
「俺と付き合わない?」とお得意の甘えた笑顔でしろが囁いた。

「俺、絶対、千沙を幸せにする。大事にする」


ノリが良くて優しくて、顔も抜群に良いしろはあっという間にクラスの中心になっていた。
そんなしろに構われるのが優越感をくすぐられたとは言わない。

でも、あたしは気が付いたらしろに惹かれていて。

今だったらあぁもうなんて大嘘吐きって思うけど、その時はその言葉が嬉しくて。