「千沙、城井くん来てるよ」


朝起きて居間に顔を出した瞬間、掛けられたお兄ちゃんの声に、もともと睡眠不足気味でぼーっとしてた思考が軽く停止した。


「……マジで?」

「マジで。約束してたんなら早く用意してあげたら? 上がって待ってるって聞いたんだけど外で待ってるんで大丈夫ですって遠慮しちゃったみたいだし」


――そっか、もう3日経っちゃったんだ。


朝飯は食ってけよと続けたお兄ちゃんに、「ごめん、いらないや」とだけ返して部屋に鞄を取りに戻る。

制服のスカートにケータイを突っ込みながら時間を確認すると、まだ7時半だった。
うちの家から高校までは15分あったら余裕で着く。早く来すぎじゃないの。


自室の窓からはちょうど軒先が見える。

外に視線をやると、塀にもたれかかっている背の高い人影が見えた。しろだ。

視線に気づいたのか、偶然だったのか分からないけれど、顔を上げたしろと、ふいに目が合った。


なんとなく逸らしかけてしまったあたしと違って、しろはにこっとそれこそ心底嬉しそうに笑いかけてくる。

それにうまく応えることが出来なさそうで、窓に背を向けて部屋を出る。
玄関に向かう途中で、昼はちゃんと食えよとお兄ちゃんの声が追いかけてきた。

適当にするからとだけ言い返して、玄関のドアノブに手をかけた。

ひねる前に一度軽く目を閉じる。切り替えるように。